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ヘンプ麻ってナニ?―大麻のはなしー

 

1.     大麻ってきくと? 「何の生地でお洋服つくっているの?」と聞かれて「大麻だよ」と答えるとギョッとされます。

当たり前ですよね。日本では芸能人や大学生の逮捕でニュースになるほどですから、ドラッグとしてのイメージが強い。だから今は怪訝な顔をされないよう「ヘンプっていう麻の1種だよ」と答えるようにしていますが、私はその概念を覆したいと考える一人です。

 

 

終戦後の1948年、GHQにより政治的な理由で大麻取締法が制定されて以来、栽培は免許制となり日本での生産用大麻畑は5ha未満となりました。日本古来の大麻には麻薬成分がほとんど含まれていないのにも関わらず、その使用はご神事や伝統ある儀式に限られており、一般には出回っておりません。ですので、私が製作している生地の原料はMade in Japanではありませんが、世界一しなやかで細かい糸を独自開発された高品質な糸を使って織り立てられたものや、日本で丁寧に整理洗いされたものを採用しております。

 

Q.では日本で栽培された大麻が用いられる最も神聖なご神事とは?

A.大嘗祭です。今上陛下が天皇即位時の儀式で、天照大神と神人合一を果たすためにお召しになったものが大麻で織られたもっとも清らかな衣「麁服(あらたえ)」です。

 

このことをご存じの方は多くありません。

大麻について大きくイメージ変わるのではないかと思います。

 

2.大麻の数奇な歴史

ではなぜ禁止とされてしまっているのでしょう?

 

先にも政治的な理由で法律が制定されたと書きましたが、アメリカの歴史を紐解く必要があります。

 

簡単に取り上げると、もともとアメリカで1933年に禁酒法が廃止された際、それまでに禁酒法で取り締まりをおこなっていた取締官が大量に解雇され、その失業対策として1937年大麻課税法が制定されたという疑惑があります。

 

その際、医療目的の使用や産業用大麻も重税の対象となりました。

なぜ大麻課税法となったかというと薬物乱用のコントロール以外に、一説には大麻使用者の多くが主に貧困層のヒスパニック系や黒人であったこと、またメキシコ移民の文化だった「マリファナ」を禁止することで、移民を排斥したいという政治的な考えと、また石油や化学薬品・繊維産業の育成を図る為、それまでの大きな大麻産業が邪魔だったともいわれています。

 

それが戦後アメリカの支配下となった日本に法律がそのままスライドし、制定されることとなりました。

 

当時は、専業の大麻農家も少なくなかったため、数万人規模で困窮が起きます。そのことを危惧した政府はGHQへの事情説明と折衝を続け、1946年11月に農政局長名で、終戦連絡事務局(GHQとの折衝を担当する機関)に大麻の栽培許可を要望しています。

 

それにより1948年「大麻取締法」と同時に「麻薬取締法」が制定されましたが、これは農家が取り扱う従来の農作物としての大麻と、医師などが取り扱う麻薬類を分けるための措置であり、大麻農家を守ろうとする苦肉の策でした。

 

GHQから大麻規制が敷かれたときに面白いエピソードがあります。法制定に関わった元内閣法制局長官の林修三氏はのちの1965年「時の法令530号」で、「先方は、黒人の兵隊などが大麻から作った麻薬を好むので、ということであったが、私どもは、なにかのまちがいではないかとすら思ったものである」と語っている記述が残っております。

 

 

3.日本には大麻喫煙文化はなかった

日本には大麻を嗜好する文化はありませんでした。

マリファナとは麻薬成分のある部分は葉や花穂であり、海外の麻薬成分の多いインド大麻「薬用型」のことで、先述のとおり日本の大麻は「繊維型」として区別されておりました。

 

洋服として取り扱われるのは産業用に栽培された茎の繊維です。

この部分には、陶酔作用のあるテトラヒドロカンナビノール (THC)という成分はほとんど含まれないよう改良されております。

 

どこが始まりかというと1960年代に欧米を中心にベトナム戦争への反対運動ヒッピーが流行し、マリファナ喫煙が流行した背景があります。当時の若者にファッション的な影響が大きかったため大麻を吸う習慣のなかった日本にも波及しました。

 

大麻農業の保護を目的として制定された大麻取締法は、いつの間にか「違法な薬物」を取り締まるための法律として機能するようになり、農作物という側面が忘れ去られた大麻は、その価値や有用性が忘れ去られ、1950年に約25,000件あった大麻農家が、現在は約40件にまで減少しています。

 

通常の法律は「総則」の冒頭に制定の「目的」が書かれるのですが、大麻取締法にはこの目的が書かれていないまま70年以上が経過しております。科学的根拠がないまま、違法とされておりますので、研究対象ともなりえず、法だけが残った状態です。

 

 

4.日本における第2次世界大戦以前の大麻

 

では、日本における大麻はいつからどのように使われていたのでしょう。

なんと1万年前、縄文前期時代の福井県三方町の鳥浜貝塚遺跡で大麻の種や縄、麻の布片がみつかっております。縄文土器は縄を押し付けた文様がありますが、それらの多くは大麻で作られた縄を使用していた可能性があります。また大麻から作られた縄は丈夫で最も長いため、燃料や衣服としても活用でき、そのほかの遺跡からも繊維や種子が発見されていることから、縄文人に広く親しまれていたと思われます。

 

では大麻が使われていたものとは?

 

しめ縄

鈴縄

熨斗袋

天皇即位の秘儀で用いられる布

横綱の化粧廻し

お盆の送り火

蚊帳

下駄の鼻緒

七味唐辛子などの食品/

赤ちゃんの産着(麻の葉模様)

 

などなど、神聖な区域とその外とを区分するためのしめ縄や、神主によるお祓い祭具である大幣(おおぬさ)も、元々は和紙ではなく大麻が使われおり、そのためオオヌサと呼ばれるようになりました。また神官の衣装は、大麻でできていて、神様へも麻が捧げられます。

 

 

大祓祝詞(おおはらえのりと)の中にも「天津菅麻」(あまつすがそ)として大麻が登場するし、先に述べました大嘗祭で献上される大麻の衣、麁妙(あらたえ)。天照大御神様の神札は神宮大麻(じんぐうたいま)といいます。神道では、「清浄」を重視しており、大麻は穢れを拭い去る力を持つ繊維として用いられます。

 

また近年席巻した「鬼滅の刃」に登場する竈門禰豆子のコスプレもよく見ましたが、その麻の葉柄は大麻の葉がモチーフです。大麻は農薬や化学肥料を使わず、手間もさほどかけないで100日ほどで2~4mほどに成長しますので、その性質にあやかって、赤ちゃんの産着のほか地名、人名にも採用されたのではないかと言い伝えられております。

 

これ以外にもお伝えしたい文化は本当に多々あります。日本人として古来より一緒に生活してきたこの繊維型である日本の大麻が、薬物として括られるのはどうしても想像し難いものがあります。

 

5.大麻産業の世界情勢と日本の製麻技術の進捗

現在アメリカでは研究栽培と商業栽培が合法化され、THC濃度が0.3%以下の品種を産業用大麻(ヘンプ)と定義し、栽培面積が増加の一途をたどっています。北米IPOでは有望な株式投資対象となっており、この世界での動きが、「繊維型」である大麻農業が地方創生の追い風になるのではないかと、日本の法律や世論の見直しに一縷の望みをかけております。

 

一方日本の技術進捗はというと、大麻布を織る技術は残っていますが、意外なことに紡績技術が進んでおりません。日本においては大麻より作られる糸は人の手で績まれたものです。手で績んだ大麻糸は他の繊維と比べても伸び率が高く、柔らかさと丈夫さを兼ね備えているという結果になっていますが、大麻産業への進出がかなわず、大麻糸の紡績における機械化が実現しないため、手で績む伝統さえも高齢化により技術が失われつつあります。

 

生地だけでなく縫い糸にも拘りたいというお客様のご要望により、大麻製の業務用ミシン糸を探しましたが、手編み用の太い糸か手縫い用糸しか出回っておらず、CHORTLEでは現在綿100%の業務用ミシン糸を使用しています。

 

過去に日本資本主義の父である渋沢栄一が、大麻産業の衰退を危惧して、一度は近代的製麻工業を目指していたそうですが、大麻の繊維は非常に強く、濡れると絡まりやすいといった特徴により技術的に難しいと判断され、亜麻(リネン)に切り替わってしまった経緯があります。

 

大麻は繊維の構造が太陽の方向に強いのと、生きるために必要な栄養を通すので空洞がチューブ型となっており、この特徴を最大限に再現するには、生えていた時の天地の向きを変えず、この繊維のチューブ構造を壊さずに繋いでいかねばなりません。一度は紡績に向かない素材と諦めてしまったものの、現在のテクノロジーをもってすれば機械化は不可能ではないはずです。この世界情勢の中で日本独自の大麻布が実現されれば、付加価値の高い布として発展することは間違いありません。

 

ほんの70年前には衣食住の礎であった大麻が、突如として追放の憂き目にあってしまい、今では忌み嫌われる植物として失われつつありますが、体系立てて文化が再認識されることで、日本本来の伝統を取り戻したいという遠大な目標があります。ただ今は、法律は順守するという規律のもと、今ある最良のヘンプ生地を採択しております。

 

現在も農作物として栽培されている大麻農家さんの心意気と忍耐、少しでも性質のよいヘンプを生産していただける生地メーカー様の努力に尊敬の念は堪えません。いつしか基幹農業としての復興とMade in Japan の繊維が実現することを祈って、少しでも多くの方々にヘンプの良さを知っていただけるようお洋服をお届けする毎日です。

 

 

参考書籍

  • 大麻博物館『日本人のための大麻の教科書』2021年
  • 中谷比佐子、安間信裕『麁服と繒服』2019年
  • 武田邦彦『大麻ヒステリー』2009年

国産天然素材のお洋服 | CHORTLE

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”着た人の人生を変えられる服”をコンセプトに、機能性がありながらモダンで柔らかな風合いのお洋服をヘンプ、シルク、コットン、リネンなど自然由来の優しい生地のみでお仕立てします。既製品では物足りない方に人気の高い、大量生産品では味わえない感動をお届けするオーダーメイドのご相談も受け付けております。

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